【人と組織の未来研究会】元日野自動車社長・下義生講師と考える「あなたの会社は、何のために存在していますか」
文責:株式会社西雄大事務所 代表取締役 西 雄大
トヨタ自動車でも常務役員、日野自動車で社長・会長を務めた下義生氏。現在は世界初の器官再生技術の医療分野への応用に取り組む、オーガンテックで社長を務めています。自らスタートアップに飛び込むとともに、様々な企業の伴走も続けており、ジェムコ・コーオペレーションズ主催のセミナー「人と組織の未来研究会」の2回目の講師を務めていただきます。※第2回:東日本2026年12月17日(木) 西日本2027年1月14日(木)
講演に先立ち要諦を伺いました。下講師は「あなたの会社は、何のために存在していますか」と皆さんに問いかけます。
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https://www.jemco.co.jp/seminar/2026jcworkshop/
今回お話をお聞きしたのは

会社の目的を共有できているか?
日野自動車で社長、会長を務め、現在は再生医療ベンチャーのオーガンテックを率いる下義生氏。ジェムコ・コーオペレーションズ主催「人と組織の未来研究会」第2回「実践事例から学ぶ」の講師を務めていただきます。現場、組織、人材育成について伺いました。
――技術と営業の両方の現場を経験されています。人材の限られる中小企業で、現場の知恵を次の世代へつなぐには、どのような仕組みが必要でしょうか。
下義生氏(以下、下氏): 仕組みの前に、会社の規模にかかわらず大事なことがあります。「うちの会社は何のために存在しているのか」をトップも若手社員も全員が共有できているかどうかです。理念というより、会社の目的と言ったほうが分かりやすいかもしれません。立場が違っても、みんなが同じ答えを言えるか。それがあれば、何かあった時に立ち戻れます。息子さんが継ぐ、外から経営者が来る、番頭さんが昇格する。どんな承継でも軸になります。
――目的を共有するには、何から始めればいいでしょうか。
下氏: お客様をとことん知ることです。私が若い頃に岡山の販売会社に駐在した時のことです。我々技術者が3年かけて議論した商品性のうち、営業担当者が理解していたのは100のうち3つほどでした。まったく伝わっていないことに驚愕しました。
でもそれは目的が伝わっていないからです。「世界初のゾーン制御エアコンを付けました」と技術をひとつずつ説明しても伝わりません。でも「夜行高速バスの乗客を非日常の空間に招き、翌朝まで最上の時間を過ごしてもらう」という目的が先にあれば、乗り心地も音響も空調も一本の話につながっていきます。目的のない説明は、結局「で、他社より高くないよね」という価格の話になってしまいます。
お客様が求めるものに対して、しっかりとした価値を提供できるか。それが会社の目的であり、存在意義です。存在意義が説明できるようになると、ブランドになる。ブランドとは突き詰めれば、高く売れるということです。最初は高くても、5年、10年使ってみると違うと多くの人が分かってくれるのです。
「変化こそ唯一の永遠」
――中小企業では「最後は社長が決める」という空気が生まれがちです。社員が意見を言える組織にするために必要なことを教えてください。
下氏: 企業規模にかかわらず、どの会社も縦割りになりがちです。いま私が取り組んでいるオーガンテックでも事業が3本柱(毛髪、歯、皮膚に関する研究)あります。毛髪の研究者は歯に、歯の研究者は毛髪に興味を持ちません。当然専門性が高い研究者なので致し方ありません。
でも、お客様のQOLを高めるという同じ目的を共有できています。最後の決断と責任は社長が負いますが、その手前では、経営者も研究者も同じ立場だと思っています。たこつぼで仕事をすると、技術だけでなく考え方まで属人化し、人が替わった瞬間に誰も分からなくなる。判断基準を共有していれば、人が替わっても続けられる持続可能な組織となるのです。
実は社長よりも毎日お客様と話している営業担当者のほうが、お客様の要望をよく理解しています。最も恐ろしいのが、社長が数年前に本部長として現場を預かっていたときの感覚で「あのお客様がそんなことを言うはずがない」と決めつけたら、会社は硬直化してしまいます。私は日野で役員として取り組んでいる時から「変化こそ唯一の永遠」という言葉を使ってきました。世の中もお客様も変化しています。変化しない会社は生き残れません。ダーウィンの進化論と同じです。
未来は歴史の上に成り立っている
――変化し続けるなかで、変わらないものは何でしょうか。
下氏: やはり目的です。社会やお客様の要望に応え、価値を出し続けることです。僕は「し続ける」という言葉がすごく好きです。そして、過去の歴史にも謙虚に学ぶ。未来しか見ないという人もいますが、お客様や世の中は、その会社との付き合いの流れを知っています。未来は歴史の上に成り立っています。
日野自動車では当時、75年史をつくりました。ただ年表と写真を並べるのではなく、テーマごとに、NHKの番組「プロジェクトX」風の文章にしたんです。若手技術者の誰と誰が何を思い、経営陣にどう訴えたかといった物語風で振り返る内容です。小型トラックの自主開発に踏み出したり、米国へ進出したりといった、みんなが興味を持てる形でまとめたのです。社史に刻まれた出来事の決断の裏側にある気持ちと目的を浮かび上がらせたかった。過去を知ったうえで、その延長線上にとどまらず、新たな変化に挑戦し続けることが大切だと考えたことによるものです。
――若い社員には、どう挑戦の場を与えればいいでしょうか。
下氏: 最後は自分が責任を持つという前提で、本人がやりたいと言ったことをやらせることです。決して放任ではありません。自分でやりたいと言ったことなら、責任を持ってやれる。ただし、1カ月で結論を出す、使えるお金はここまで、といった条件は付けます。目的が明確なら、単なる興味本位の提案は出てこないはずです。企業規模に関係ないですね。
受講者の皆さんに持ち帰ってほしい2つのこと
――最後に、受講者の皆さんに持ち帰ってほしいことを教えてください。
下氏: あなたの会社は何のために存在しているのか。自問自答し、社内で共有してほしいです。
もうひとつは、役職が上がると自分が学ぶ感覚が薄れ、組織を使って自分の結論に持っていこうとしがちだということです。それでは、どんなに優秀な人でも、会社はその人の能力を超えられません。社員との議論を通じて、自分ももう一度成長できる。そう思える経営者に、若い人はついてくるはずです。
社内では考えづらいことも多いでしょう。私をはじめとした仲間とともに、考える時間としましょう。




