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JEMCO通信

2016-01-28 海外のコンサルの現場から

グローバル展開の現場から|2016年のグローバル事業展開課題は?~日本のものづくりが試される時~

文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 高橋功吉   

 

2016年がスタートした。今回は、連載中の内容は次回にして、2016年のグローバルでの事業展開課題の一端について述べることにする。

年末になると、いつも注目している調査結果が発表される。一つは、四半期単位で日本経済新聞社が行なっている社長100人アンケート*1だ。毎年年末に発表される内容は、来年について主要な企業のトップがどう考えているかの調査結果が発表される。来年に向けての事業課題や投資意向等を把握するにはよい調査資料だ。また、もう一つ、注目しているのは、毎年12月にジェトロから発表される「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」*2だ。これは、アジア・オセアニア地区に進出している5000社近い企業の回答をまとめたもので、主要国の状況や課題を把握するには、大変よい調査資料である。

 

◆中国拠点の方向付け

 ところで、昨年末に発表されたこれらの調査結果を見ると、社長100人アンケートでは、国内景気については1年後ということでは、①よくなっている②改善の兆しが出ているとの回答を合計すると77.9%と、大半の経営者がよい方向に向かうとしている。しかし、そのような中で、やはり懸念事項としては、中国経済の動向と言える。中国の景気の現状をどのように認識しているかという質問に対しては、④緩やかながら悪化している⑤急速に悪化しているを合計すると、53.4%の経営者が悪化してきていると認識。さらに中国経済減速による経営影響としては、④ややマイナスと⑤マイナスを合計すると67.6%を占めており、影響内容としては、中国での販売減少、中国への輸出の減少のみならず、中国の工場の生産縮小を上げている企業も26.5%にのぼる。ところで、ジェトロが昨年12月22日に発表した「2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」をみると、回答した中国進出企業874社では、過去1年での従業員数の変化では、1/3近くの32.8%の企業で現地従業員数は減少と回答している。増加したところが22.9%あるものの、これらを見ると、明らかに、中国での生産規模の縮小、拠点の縮小が加速していると推察される。

この背景には、中国経済の減速ということだけではなく、人件費の高騰が実は大きな要因となっている。上海の最低賃金を例にとると、2010年には1120元だったものが、2015年には2020元と、この5年で倍近くになった。ジェトロの同調査でも、経営上の問題のトップは従業員の賃金上昇となっているが、アジア・オセアニアのすべての国の中で、賃金上昇を経営問題としてあげた企業は中国の84.3%がトップとなっている。実際、中国の日系企業では人件費の高騰と共に年々利益が大幅に悪化。生産品目の見直し、さらには、事業構造の変革に迫られている企業は多い。特に、製造業の中でも、繊維や食品といった労働集約型の企業は、赤字に陥っているところが多く、ジェトロの同調査の中国編を見ると、2015年度の見通しとしては、繊維では38.5%、また、食料品では38.1%の企業が赤字の見通しとなっている。

また、中国を輸出拠点にしていた企業は、その役割をASEAN等にシフトするなど、グローバルでの供給拠点戦略の見直しを迫られた企業は多く、労働集約型の生産品目をやめ、中国市場向けの高付加価値商品にシフトするなど、事業戦略そのものの見直しが加速している。

 

◆ASEANでは、投資したい国はインドネシア、タイだが・・・

 さて、中国に対し、東南アジアへの投資拡大意向は強い。社長100人アンケートの中で、「東南アジアでの事業規模を中長期的にどうされますか」という質問に対しては、拡大するが51.0%、やや拡大するが26.3%と、77%もの企業が拡大を目論んでいる。この背景には、中国市場の動向や中国での人件費高騰問題もあるが、昨年末に発足したAEC(ASEAN経済共同体)の発足も一つのビジネスチャンスと捉えている企業も多い。ASEAN諸国の中で重点的に投資したい国としては、1位がインドネシアの35.9%。2位がタイの30.3%、3位がベトナムの22.1%となっており、この3国が突出している。確かに、ASEAN最大の人口を抱えるのはインドネシアであり、市場という意味でも当然と言える。また、人件費では、まだベトナムは他国と比較すると安いのも事実だ。しかし、これらの国でも、大きな問題は、中国同様の賃金上昇である。特に、インドネシアやベトナムは人件費の上昇が激しい。例えばベトナムでは、ハノイやホーチミンといった地域1で、2011年に155万ドンだった最低賃金が2015年には310万ドンと4年でちょうど倍になった。インドネシアも、地区によって異なるが、例えば、ブカシ県であれば、2011年には1286千ルピアだったものが、2015年には2925千ルピアと、この4年間で、2.3倍になっている。実際、ジェトロの同調査結果を見ると、経営上の問題点としての賃金上昇については、インドネシアが中国に続いて80.5%、また、ベトナムが3位で77.9%となっており、実は、中国と同様の課題を抱えているということだ。

すなわち、現在は、人件費率が15%程度の企業でも、4年も経つと、人件費率は30%を超えることになってしまうということであり、早晩、今のままでは、中国と同様、事業が立ち行かなくなる可能性が高いということだ。

◆◆日本のものづくりが試される時

 さて、2016年のグローバル事業展開ということでは、これらの環境変化からも明らかなように、さらなる製造拠点戦略の見直しが必要になってくるということであり、いかにスピードを持って対応するかが鍵になる。対応が遅れると、それだけで赤字に転落すると共に、大幅な赤字拡大という事態を招くことになる。また、ミャンマーをはじめ、さらに人件費の安い地域への展開やシフトということもあるが、併せて重要なことは、いよいよ、日本のものづくりの真髄が試されるタイミングになったのではないかということだ。すなわち、新たな工法開発を含め、日本のお家芸だったものづくりの進化が、グローバルでどれだけ展開できるかという時期になったということではないだろうか。

すでに、中国などでの工作機や生産設備の展示会では、おもちゃのようなものも多いが、ロボットの展示が増えている。ロボット化、自動化が必須になっているということが背景ということなのだが、日本のものづくりは、単にロボット化だけではなく、そこに、新たな工法を織り込むことで、どうやって作ったのだろうかと言わせる「ものづくり技術」があった。品物を見ればこういうものだとわかるが、どうやって作るのかわからないようなものであると簡単には真似はできない。このことは、以前、コラムの中でも記載したことがあるが、実は、ものづくりのブラックボックス化は日本のお家芸の一つだったはずだ。

どの拠点も、人件費は高騰している。それを凌駕できるものづくりが、これからの日本がグローバルで生き残るためには重要になるが、2016年のグローバル展開の中には、ものづくりをどう進化させるのかというシナリオも大切になるのではないだろうか。新たな工法開発を含めて、日本のものづくりが試される時が来たと言えるのではないだろうか。 

 

*1上記文面の中の日本経済新聞社の社長100人アンケートの調査結果は、2015年12月21日付けの日経産業新聞に掲載されたものから引用。

*2ジェトロの「2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」及び「同中国編」は、下記サイトより引用。

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2015/01/4be53510035c0688.html

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2015/01/0b534b5d88fcc897.html

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