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JEMCO通信

2015-12-08 海外のコンサルの現場から

グローバル展開の現場から|出向者人材の育成(2)

文責:ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部 高橋功吉   

 

 前回は、海外拠点での経営問題を見ると、人災と言ってもおかしくないのではという事項が多く、そういう意味では、出向者人材の育成が極めて重要なのだが、現実を見ると計画的な育成には難しさがあることを述べた。また、出向候補者の選定としては、単に能力だけで判断するのではなく、異文化で仕事をする資質があるか否かが重要であることを述べた。

 

 今回は、資質のある人材を選定した上で、海外拠点の経営幹部として、赴任前に最低限、身に付けておくべき事項について述べることにする。

 

◆赴任前研修が真に有効なものになっているか

 

 赴任前研修や出向候補者研修を行なわれている企業は多い。 

実際、海外での仕事に順応できる資質のある人でも、不安事項は多く、それは、異文化の国で仕事をすることへの不安だけではなく、仕事の範囲が大幅に広がることから、未経験の仕事に対する不安と共に、海外の場合は、教えてもらえる人が近くにいないということも背景にある。それだけに、赴任前の研修は極めて重要と言える。しかし、研修内容を見せていただくと、これでよいのかというものが意外に多い。失礼な言い方だが、研修メニューそのものが、経営を担った経験のない人や、海外出向したこともない人が企画したのではないかという内容になっていることが多いからだ。

 

 それでは、海外での経営を担う立場として、最低でも理解しておく必要のある事項としては、どんなことがあるだろうか。一つには、経営を担う立場である以上、経営の基本についての理解である。これが身に付いていなくては、適切な経営判断や経営の舵取りは難しい。ベースはキャッシュフローへの理解と、具体的な推進方法の理解が必須だ。また、成り行き経営にしないためには、経営計画の策定や日常の経営推進管理といった事項も理解しておく必要がある。さらに、海外では日本の常識は非常識ということも多い。その国で仕事をさせていただくという姿勢で仕事をすることが大切ということだが、海外での常識や海外でよくある問題を事前に理解していないと落とし穴にはまることもある。ローカルの皆さんとの接し方も含めて、先ずは、これら最低でも必要となる知識について、短期間で修得できるカリキュラムは、是非、用意しておきたい。 

 

◆経営の基本としてのキャッシュフローへの理解 

 今回は、先ず、それらの中から経営の基本への理解ということについて述べる。 

海外出向すると、大抵、役職は1~2階級上になると共に、経営全般を担う立場になることが大半だ。さらに、海外拠点は日本の中の一工場ではなく、独立した法人ということになる。税務調査が入ることもあれば、労使協議等も独立した会社として対応が必要になる。 

 今までは、本社のメンバーがやってくれていたというようなことも、自分の責任で行なうことが必要になる。 

例えば、資金繰りだ。資金繰りなどは、本社の財務部門や経理部門がやってくれていたことで、今までは、そんなことは知る必要がなかったかもしれない。実際、自分の財布にはいくらお金が入っているかは知っていても、会社にいくらお金があるかは知る必要もなかったという人は多い。しかし、独立した会社ということになると、そうはいかない。資金ショートすれば、倒産ということになりかねない。従業員への給与の支払い、調達先への支払い等で苦労したことなどなかった人が、「資金不足で給与支払いができませんがどうしましょうか」とローカルの経理責任者に言われて、慌てふためいたというようなこともありうるからだ。 

 

 そういう意味では、先ずは、経営の基本となる「キャッシュフロー」についての理解は必須と言える。どうするとお金が増やせるか、どうするとお金が減るか、誰もがわかっていそうな当たり前のことなのだが、意外に、この基本が理解されておらず苦労されている例は多い。もともと経営は、株主や金融機関等から調達したお金を使って、いかにキャッシュを生み出していくかということであり、そこで生み出したお金を使ってさらなる成長発展に向けて投資をし、さらに新たなお金を生み出すというのが、事業を存続発展させていく基本のサイクルになる。従って、ムダなお金の使い方をせず、キャッシュを生み出すには何に取り組む必要があるかという基本がわかっていないと、話しにならないということだ。ちなみに、誰もムダなお金の使い方などしているとは思っていない。しかし、例えば、売掛金であれば相手に無償でお金を貸しているのと同じであり、また、在庫はお金が物になって寝ている状態なので、借金をして調達したお金が売掛金や在庫になっているということは、それだけで金利を支払っているという感覚が持てることが大切なのだ。 

 

 すなわち、どこからお金を調達し、そのお金を事業推進のための資産にどう換えたのかを示したものがB/Sであるが、先ずは、B/Sの中身がわからなくては、有効なお金の使い方にできているかもわからないことになる。 

 

 どの企業でも利益については、うるさく言われており、大抵の人が理解している。しかし、B/Sやキャッシュフロー計算書などは見たことも無いという人が多い。これでは、経営を担うことは難しい。最低でも、資金の組立や利益の組立ができなければ、経営計画そのものの策定もできないし、また、日常の経営管理も難しい。実際、未回収の売掛金が多いにもかかわらず、利益しか見ておらず、利益が出ているにもかかわらず資金ショートに陥ったという事例もある。海外では、支払いを遅らせるのは当たり前という国は多く、日本の感覚で、売ったらお金を支払ってくれるものという感覚でいると、大変な事態になることがあるが、日頃からB/Sやキャッシュフロー計算書、資金繰り表から管理しておくべき事項がわかっていないと、このような事態にもなりかねない。 

 先ずは、経営の基本としてのキャッシュフローについては、徹底して事前に勉強して赴任いただきたいということだ。

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